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西日の差す教室   




 机に腰掛けてカリョナは遠く、窓の外を見ている。紐を解いてつっかけただけのサンダルがゆらゆらと力なく揺れ、足から抜けてぽぉん、と弧をえがいて飛んだ。飛ばした本人はぼんやりとしていて、そのことに気がついていないようだった。
 何やってんだよ、偶然通りがりそれを見止めたリヴは足を止めた。

 ぽぉん

 その視線の先で、もう片方の足からもサンダルは脱げて飛んだ。それでも彼女の視線は窓の外に向けられたまま動かない。
「何やってんだ?」
 声が耳に届いたのだろう、ぴくりと体を揺らして彼女は現実に戻ってきた。ゆっくりとこちらを向いて、驚いたように目を見開く。
「うそ、今のリヴの声?」
「他に誰がいるんだよ」
 茜に染まる教室は、生徒が帰ってしまえばさびしい場所にたちまち変わる。
「驚いた」
 何に驚いたんだか。飛んだサンダルを片方拾って埃を払う。
「毎日会うとわかんないものねぇ」
「何が?」
 たずねると彼女はくすくすと笑った。
「声よ」
 ずいぶん低くなったわね。もう一足を拾いに行ったその背中に声は言う。
「声変わりしたのなんてずいぶん昔の話だ」
 言外にあなたには関心がないと言われているようで内心面白くない。先日、一大決心とともに伝えたプロポーズだって彼女との関係を変えるに至らなかった。
 顔をしかめて拾ったサンダルを差し出したが、彼女の関心はまた窓の外へ向かったようだった。
「何見てるんだ?」
「んー、雲」
 小さくため息をついて屈むと、小さな子どもにしてやるように彼女の足にサンダルを突っ込んだ。長い皮ひもを足首に幾重にも巻きつけて結ぶ。サンダルを履く意思はあったのか、履かせやすいようにわずかに足が動いた。
「細い足首」
 いたずら半分に手でつかむと親指と中指がかすかに触れた。もう片方を手にとって反対の足をつかむ。
「……後は自分で履く」
 そう言って机から飛び降りて屈んだ彼女の頬がほんのり赤かったように見えたのは、夕焼けのせいだろうか、それともそうあってほしいとの願いが見せた幻だろうか。

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